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hの隣人 kの愛人

1 :町医者:01/12/21 10:36

*彼に出会ったのは秋晴れの日曜の事*

2 :町医者:01/12/21 10:36

窓から青空を切り取ると、断片雲が流れていっている。
それもものすごい速さで。
上空は地上と違い、風を沢山はらんでいるようだ。

秋の天気は変わりやすい。

まだ午後3時前だけれど、日も暮れるのが早くなったことだし、
hは布団を取り込むことにした。

3 :町医者:01/12/21 10:37

壁を隔てた向こうからは、隣人の洗濯機の音。

布団を抱えたhと隣人の距離は、ほんの1メートルにも満たない。

4 :町医者:01/12/21 10:37

思い切って、顔をあげたhの目に飛び込んできたのは、
ニットキャップを少々目深に被った、青年であった。

青年は凝視するでもなく、しかし興味があるような雰囲気を漂わせ、
こちらを見ている。

hは、自分が顔をあげたことを少し後悔した。

5 :町医者:01/12/21 10:37

*次に会ったのは夕暮れの帰り道*

6 :町医者:01/12/21 10:37

日曜日は雑用の日だ。
休日だというのに、早起きをし、
午前中のうちから、家事に精を出す。

7 :町医者:01/12/21 10:38

hの部屋は、風通しのよい部屋であった。
窓を開ければ、風が舞い込み、
前日までの、詰まってしまった空気を押し流すように、
新しい風は、部屋を優しく包みこむ。

8 :町医者:01/12/21 10:38

午後からは、次の休みまでのために、食料を買い込んだり、
少々休憩して、昼寝をしている間に、hの休日は過ぎてゆく。

「それでいいのだ」
hは、自分の休日に満足していた。

9 :町医者:01/12/21 10:38

その日曜は、大変夕暮れが綺麗な日曜だった。
いつもの様に、袋いっぱいに食材を買い込み、
hは夕暮れを眺めていた。

10 :町医者:01/12/21 10:38

「大丈夫ですか?」

声の方に振り返ると…。
彼だった。

11 :町医者:01/12/21 10:39

「あ…ええ」
hは一瞬言葉を失った。
声のトーンで、自分が緊張しているのが分かり、
余計に恥ずかしくなった。

「持ちましょうか?」

「い…いえ」

hには、そう答えるが精一杯だった。
家までは、ほんの数歩。

12 :町医者:01/12/21 10:39

彼は、hに軽く会釈をすると、
アパートの駐輪所で、バイクにエンジンをかけた。

「…どうも」
階段を上がる前に、hは本当に聞こえるかどうかの声で、
彼にあいさつを送った。

13 :町医者:01/12/21 10:40

*赤い花は 鶏頭*

14 :町医者:01/12/21 10:40

日が短くなってきた。
たまには、太陽が真上にある時間に、外に出てみるのもいいだろうと、
hは外へ出て見たのだが、一人では特に行くあてもなく、
結局、まだ日の高いうちに、自宅へと辿りついてしまった。

15 :町医者:01/12/21 10:40

窓を開け放して、ベランダで一服する。

ぼんやりと、空中に蚊柱。
路肩には、力強く咲く鶏頭の花。
お隣りの家の塀の上では、鳩が仲睦まじく並び、
庭の木々が、紅葉し、重なりあって、乾いた音を立てている。
目下に見えるのは、畑。
老人と孫だろうか?
老人は、熱心に畑の手入れをしていた。
子どもは、退屈そうに、畑になってる芋の蔓を弄んでいる。

16 :町医者:01/12/21 10:41

「こら!」
からかうような声の方に目を向けると、
隣りのベランダには。
彼だ。

子どもはこちらを一瞥したが、さして気にも留めずに、
また芋の蔓を弄り始めた。

17 :町医者:01/12/21 10:42

彼は、真っ赤なニット帽を被った頭をこちらに向けると、
「最近の子どもはかわい気がないな」
と、軽く笑った。

「こんにちわ」

「こんにちわ」

18 :町医者:01/12/21 10:42

「素敵な色の帽子ね」

「そう?安かったよ」

「まるで…ほら」

私は路肩の方を指差した。

「鶏頭みたい」

19 :町医者:01/12/21 10:42

*帰り道*

20 :町医者:01/12/21 10:42

家路を急ぐ人の波の中で、hはひどく疲労していた。
きっかけは、こうだ。

昼間のことである。
金曜の午後にもなると、同僚たちは、今晩の予定をそれとなく話出し、
少々浮き足立っている。
そんな人々をよそ目に、いつもの様に、hはオフィスで淡々と仕事をこなす。

21 :町医者:01/12/21 10:43

「hさん」
隣に座っていた、同期の男が話しかけてきた。
大して、仲の良い人間のいないhにとって、
数少ない、気軽に話を出来る人物である。

22 :町医者:01/12/21 10:43

並んで仕事をしながら、他愛のない話をした。

「年末だね」

「今年一年、あっという間だったなあ」

「本当に何もない一年だったよ」
hは、ため息混じりに少し笑った。

「hさん」

「はい?」

「今だから言うけど」

「うん」

「俺、hさんのこと好きだったんだよね」

23 :町医者:01/12/21 10:43

「そんな事、今言われても困るし…」

今まで、何とも思っていなかった人物からの、突然の告白を、
hはどう受け止めればいいのか分かず、そう返すのが精一杯だった。
男は「そうだよね」と軽く笑うと、
そのまま席を立って、どこかに消えた。

24 :町医者:01/12/21 10:44

帰り道、何度か昼間の場面を頭の中で反芻して、
hはひどく疲労していた。
金曜の駅に群がる、家路を急ぐ人々の波が疎ましい。

吸いこまれてゆく、改札の人だかりの中に、
ゆらゆら揺れる、真っ赤なニット帽。

彼だ。

25 :町医者:01/12/21 10:44

足早に近づいて、しかしどうすることも出来ずに、
hは彼を追い越す。

「こんばんわ」

ざわめく中で、はっきりと彼の声を聞いた。
振り返ると、やっぱり彼がそこに立っている。
分かっていて、声をかける事が出来なかった自分を、
hは恥ずかしく思った。

26 :町医者:01/12/21 10:44

「免許、取るんですか?」

すっかり陽も暮れて、電灯の灯る道を並んで歩いている。
彼が小脇にかかえていた、教習所のパンフレットが目についた」

「ああ、ええ…通おうと思って」

「いいですね」

「もってないんですか?免許」

「ええ…」

家はもう目前。
いつも歩いている道は、こんなに短いものだったのかと、
hは少々がっかりした。

27 :町医者:01/12/21 10:45

「では…」

玄関の前で、軽くお辞儀した。

「あの…」

ノブに手をかけたところで、彼が声をかけた。

28 :町医者:01/12/21 10:45

「免許取ったら、どこかに行きませんか」

それは、思いもがけない言葉だった。

「ええ…」

hははにかんで、一礼すると、彼はこう続けた。

「俺、kって言います」

彼もはにかんで、一礼すると、扉の中へ消えていった。
扉を閉める音が、いつまでもhの耳の奥に残っていた。

29 : :01/12/25 00:25


30 :町医者:01/12/25 16:40

*ため息*

31 :町医者:01/12/25 16:41

家と反対の方向に、その店はあった。
並木の商店街を裏路地を入ると、
古ぼけた、そこだけ時間の流れていないようなその店が、
hの大のお気に入りであった。

32 :町医者:01/12/25 16:41

並木の商店街は、この時期になると、毎年ライトアップされていて、
特に何があるというわけではない、hの心さえ、
華やかな気分にさせる。

気分がいい時、余裕のある時、
hはその店で過ごすことがある。

並木のライトに導かれるように、hは今日もその店にやってきた。

33 :町医者:01/12/25 16:42

店内には、無精髭の生えた男性と髪の短い女性。
決して若いわけではないが、年をとっている風でもない。
夫婦だろうか。

窓辺に座ると、ほとんど人の通ることのない路地を眺めながら、
hは暖かいコーヒーの匂いに包まれる。

34 :町医者:01/12/25 16:42

店の扉が開いて、外の空気の匂いがした。
扉の先にいる人物を見て、hは一瞬息を飲んだ。
kだ。
しかし、彼の影に隠れるように、
小綺麗な格好をした女の子の影が見えた。

35 :町医者:01/12/25 16:42

kはすぐhに気づき、軽くこちらに会釈をすると、
慣れた風に彼女を席に誘導した。

沈黙が流れる。
聞こえるのは、古いレコードの音だけ。
しかし、hの記憶に刷り込まれる隙は、今はない。

外は今にも、雨が降り出しそうだ。
きっと、今夜には雪になるだろう。

今日は、きっと寒くなる。

36 :夢見る名無しさん:01/12/27 22:11
祝復活!

いいですなぁ。

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